as

リスキリング政策から考える“人材育成の基本法則”
VOL.3 マネジメントはある時点から変質する

ebihara

海老原 嗣生

雇用のカリスマ(ヒューマネージ社顧問)

nak

中久保 佑樹

ヒューマネージ 『HR AGE』編集長

ebihara

海老原 嗣生

雇用のカリスマ
(ヒューマネージ社顧問)

nak

中久保 佑樹

ヒューマネージ
『HR AGE』編集長

このコーナーは、『HR AGE』編集長の中久保佑樹(株式会社ヒューマネージ)が、雇用のカリスマ・海老原嗣生氏の胸を借り、世間一般で言われる雇用問題について、何が正しいのかをテーマごとに集中連載で解き明かして行きます(ヒューマネージ代表・齋藤亮三も同席)。節々に人事・雇用に必要な基礎知識を盛り込み、ニュース解説のようにご覧いただけて、かつ経営・人事に必要な“眼”につながる記事を目指しました。多少の脱線はありますが、私自身、このハードな筋トレのような集中連載を通じて、データ、事例、政策、法律…世界や歴史を見渡した本物の知識を身につけていきたいと思います。人事の皆さまにとって、少しでもお役にたてば幸いです。

saito

齋藤 亮三

ヒューマネージ代表取締役社長

saito

齋藤 亮三

ヒューマネージ代表取締役社長

それ、大きな誤り!

humanage003
humanage003

欧米は義務教育の間に2~3割が落第する!

齋藤:人材育成の原則がクリアになりました。まず、年次の浅い社員が一律で成長するような時期はボトムアップ型育成が良い、それを過ぎて停滞期になれば、トップエクステンションが最大リターンを生むということですね。

老原前に書いた通り、日本は前者が得意、アメリカは後者が得意という、その違いなんです。日本にいれば、「欧米のようにリーダーが育たない」ということがいつも問題視されますが、これ、合わせ鏡みたいなもんなんです。欧米では「日本のようにどうやったらエントリー人材をボトムアップできるか」を悩んでいます。お互いにないものねだりしているんですよね。

齋藤:ならば、日本はボトムアップ型をしっかり守りながら、途中からトップエクステンションに移れれば、両方のいいとこ取りになれますね。ただ、それができません。平等意識が強すぎて、ある一部の人を若年時に引き上げることができないんですよね。

海老原:ただ、それもしょうがないところがあるんですよ。欧米の場合、義務教育期間からどんどん格差がついていきます。15歳までの間に落第する人が、2~3割いる国が普通だし、逆に上位者はグランゼコールや博士課程まで進む。その間の授業課程も単なるお勉強だけでなく、ハートや体力まで鍛えられるようになっている。そうして、会社に入る入り口の時点で、エリートとそうでない人に分かれています。日本の場合は、学校でそこまでの差はなくて、入社時点でもほぼ一律採用。育成も平等。で、ある年代から急に、「芽のある人」と、そうでない人に分けると、耐性ができていないから、不平不満が大きくなるんでしょう。

義務教育期間中に落第する人の割合
義務教育期間中に落第する人の割合
n-1

最初の役職昇任時が一つのメルクマール

中久保:そういうことで不平不満が起きるのは覚悟したとして、そのうえで、あえて言うなら、トップエクステンションに移るべき時期は、一言でいうといつ頃になるんでしょうか。

海老原:私は、欧米型の「学校時代に多くの結論が出てしまう」というのは早すぎると思います。勉強は苦手だけど仕事は得意、という人はけっこういますから。そうした意味で、入社時点は平等という日本型はそれなりにリーズナブルでしょう。それで成長期を終えるまでボトムアップ型、つまり「差をつけない日本型教育」をそのまま延長する。で、停滞期に入る頃に変える。そのメルクマール(兆し)は、「会社の最初の役職」に就く年代と思っています。

齋藤:それは、主任とか係長ですか?

海老原:そんなところでしょう。その頃には、全員一律の成長が終末期になっているのと、それまでの査定の積み重ねから、評価差がはっきり出ています。

齋藤:それなら、メガバンクや商社でいれば30歳前半、人材系であれば20代後半と、確かに成長期の長さに応じて業界ごとに最適な時期が見えますね。そこが最適な時期ですか?

海老原:このメルクマールは、「最速の場合」と考えてください。これ以上早くはできないと。逆に、大器晩成型の人もいるから、これ以上遅い場合でも随時、トップエクステンション層に抜擢するのはアリと思っています。

n-2

持続的成長と非持続的成長

齋藤:私も、かつて総合商社に勤めている時に、新規事業でヒューマネージの前身に携わり、そこから今に至っています。確かに、事業特性が異なるので、総合商社とヒューマネージでは、育成スピードに差が出る気がしています。商社の場合、事業子会社への出向などもあり、係長相応の年代から、背伸びしてマネジメント経験を積んでいました。トップエクステンションってそんな感じで、「経営者としての能力を身につけるよう」に成長できる仕事をアサインしたり、相応のOff-JTを施すことで事足りますか。

海老原:大企業はそのあたり、本当によくできていますよね。自社で管理職となる前に、販社や取引先などで一足先に上の役職を経験させたりしていて。ただ、それが同年次のボリューム層に一律で行われています。そこが一つ目の修正点。そして、もう一つ、大きな問題があると考えます。マネジメントって、ある段階から変質するんですよね。

齋藤:確かに、それはわかります。課長くらいまでは数字と対人管理で事足りますが、それでは経営にはなれません。

海老原:私は、「量の拡大」と「質の転換」だと思っています。たとえば、後輩の指導役なら部下は1人、チームリーダーなら部下は3人、課長なら部下は10人、部長なら30人といった感じで所帯が大きくなり、マネジメントが複雑化する。これが量の拡大期。

齋藤:その大きさに応じて、戦術や戦略が難しくなるし、ステークホルダーも増える。当然難易度は増しますが、基本は、「同じ事業・同じ商品・同じミッション(目標達成)」ですよね。

海老原:そうなんです。たとえば、同じ東海地区の事業部で、名古屋支社二課係長→同支社一課長→東海事業部長と進んでも、これは持続的な成長に他なりません。ところが、こんな販売管理畑一本の部長が、新たに販売促進部に異動となり、「営業活動をeコマース化する」というミッションを負ったらどうでしょう。全く異次元のミッションですよね。

齋藤:それが、「量から質に」ということですね。

海老原:そうなんです。量の時期は、対人と対目標の「複雑化」というエクステンション。対して「質」の時期は、経営へのステップとしてのエクステンションなんです。

齋藤:前者と後者では同じマネジメント業務としても、全く内容が異なります。持続的、非持続的という言葉が言いえて妙です。

海老原:アーキテクトの違いともいえそうですよね。マネージャー教育って、後輩指導から管理職という量の拡大アーキテクトと、そこから外れて経営頭を培うという質の転換アーキテクトからなると思うんです。前者に関しては、「トップ層全員に」という形で、まだ、ボトムアップ型の残滓が垣間見られる育成法で問題ないのですが、後者は「選び抜かれた」数人にのみ、と本当の意味での欧米型になるべきじゃないでしょうか。

リーダーに求められる2種の複雑性
リーダーに求められる2種の複雑性

齋藤:さっきの話では、「最初の役職者」が出る年代でボトムアップ型を廃してトップエクステンションに移行するわけですよね。最初は量の拡大期、質の転換期と順を追っていくわけですか?

海老原:日本の大手がLDP(リーダーシップ育成プラン)を作ると、往々に、そういう形で紋切り型のプランになりがちです。でも、人によって、量の時期は不要でいきなり質の時期へ、というのもありだと思うんです。そこはあくまで人を見て、最適なプランニングをし、タフアサインメント(成長のために難仕事を任せる)したりするのが良いんじゃないですか。

中久保:僕が、齋藤さんや海老原さんの無理難題をいつも押しつけられてるのも、経営者になるためのタフアサインメントなんですね。

海老原:まだまだ、無茶ぶりの「量的拡大期」だぞー(笑)

n-3
as 1

中久保:トップエクステンションに移る時期は、「最初の役職に就く時期」が1つの目安とのことでした

齋藤:そうだな、人によってはそのタイミング以降でもトップエクステンションに移るのもありということだったな

中久保:人を育てるためには、それぞれの性格や特徴を考慮しなきゃということですね

齋藤:そうだな。よし、中久保には新オフィスに海老ちゃんモニュメントを作ってもらおう

中久保:それはタフアサインメントすぎますよ(汗)

shincho