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リスキリング政策から考える“人材育成の基本法則”
VOL.2  成長期にはボトムアップ、停滞期にはトップエクステンション

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海老原 嗣生

雇用のカリスマ(ヒューマネージ社顧問)

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中久保 佑樹

ヒューマネージ 『HR AGE』編集長

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海老原 嗣生

雇用のカリスマ
(ヒューマネージ社顧問)

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中久保 佑樹

ヒューマネージ
『HR AGE』編集長

このコーナーは、『HR AGE』編集長の中久保佑樹(株式会社ヒューマネージ)が、雇用のカリスマ・海老原嗣生氏の胸を借り、世間一般で言われる雇用問題について、何が正しいのかをテーマごとに集中連載で解き明かして行きます(ヒューマネージ代表・齋藤亮三も同席)。節々に人事・雇用に必要な基礎知識を盛り込み、ニュース解説のようにご覧いただけて、かつ経営・人事に必要な“眼”につながる記事を目指しました。多少の脱線はありますが、私自身、このハードな筋トレのような集中連載を通じて、データ、事例、政策、法律…世界や歴史を見渡した本物の知識を身につけていきたいと思います。人事の皆さまにとって、少しでもお役にたてば幸いです。

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齋藤 亮三

ヒューマネージ代表取締役社長

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齋藤 亮三

ヒューマネージ代表取締役社長

それ、大きな誤り!

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日本の兵隊、ドイツの将校、アメリカの将軍

齋藤:海老原さん、前回の話以来、ひとつ気になっていることがあるんですが。

海老原:たまには、中久保の昇給ネタ以外から話が始まるのもいいですね。

中久保:今回僕は、出番少なそうで。

齋藤:それはさておき、人材育成って広く全方位で底上げするのと、「伸びそうな一部の人」を強烈に引っ張り上げるのと、 どちらが良いのでしょう。

海老原:ボトムアップか、トップエクステンションか、ですね。よく、日本は前者が強く、アメリカは後者が強いと言われますよね。これ、戦前からそうだったみたいで、アメリカでは強い軍隊、弱い軍隊という笑い話があるんです。

齋藤:それ知ってますよ。強い軍隊は、「日本の兵隊、ドイツの将校、アメリカの将軍」。で、弱い軍隊は「イタリアの兵隊、ロシアの将校、日本の将軍」。

海老原:そうそう。世界の人材育成の違いを良く言い表していますよね。日本はたたき上げで下が強い、アメリカはエリート育成で上が強い。

齋藤:私らの世代だと、「日本は分厚いミドル(優秀な中位人材)」とよく言われたほど、下から中間管理職あたりまでが優秀と言われました。

海老原:この理由は、人事管理理論で解き明かせるのですが、今回はそれよりもまず、ボトムアップとトップエクステンション、どちらが良いのかについて、結論を出しておきましょう。

事業によって「一人前になる」のに必要な年月が異なる

中久保:それ、理論で解明できるんですか?

海老原:詳細は各社各様になるから複雑になるけど、概略なら簡単に説明できるよ。それはね、成長期と停滞期という考え方なんだ。たとえばさ、中久保の大学時代の友人には、メガバンクで働いている人もいると思うし、人材ビジネスで働いている人も少なくないだろう。

中久保:はい。どちらも多いですね。

海老原:でも、少し不思議じゃないかい?銀行だと君の年齢で支店長になった人はまだいないと思う。ところが人材ビジネスならもう、役員になっている人も出ている。部長や課長はざらだ。どうしてこんなに差がつくと思う?

中久保:う~ん、一つには組織の大きさかなぁ…いや、人材系の大企業でも昇進は早いから違うか。なら、歴史の差だろうか…っていっても、人材系でも創立60年を超えるとこもあるし…。

海老原:社風と一言で片づけるのは簡単だけど、それじゃ意味ないよね。これさ、「一人前になるまでの習熟期間の長さ」でかなり説明できるんだよ。たとえば、銀行の法人融資ってけっこうな専門知識が必要じゃないか。BS/PLが読めて、他行との協調ができて、手形の割引がわかって、資金繰り表が作れて。そりゃものすごい専門知識の塊であり、素人ではとても無理だ。でもさ、そんなこと、何にも知らない文学部や教育学部、政治学部とかの学生を採用してるんだよな。

中久保:僕は経済学部でしたが、法人融資なんかまるで何もわからないですね。

海老原:そうした未経験者を採用して、窓口から始めて、個人融資→小規模法人→中堅法人→大規模法人と、徐々に難しい仕事を覚えさせ、10年くらいかけて一人前に育てる。その間、毎年、取引額は大きくなり、それに伴って発生する営業利益も大きくなってくる。対して人材ビジネスでは、2年目くらいで頭角を現して、もう全社MVPレースなんかに顔を出す人も多い。これはなぜだかわかるかい?

中久保:話の筋から読めば、それだけ覚えることも少ないということですか?

海老原:そう、小難しい専門知識や経験を積みかさねるよりも、本人の人間力が勝負のポイントになる。年次別の営業成績を見ていくと、3年目くらいまでは平均売上なども伸びるのだけど、その後は、一律成長というより、個人により伸びる人と、そうでない人に分かれる。

中久保:確かに、級友を見てもそんな感じです。

海老原:これでわかると思うけどさ、事業によって一人前になるのにかかる時間って、異なるんだ。大量の技能・知識が必要で、それをもとに大きな仕事をするような業界は、育成に時間がかかる。銀行の例はわかりやすいけど、それ以外にも、たとえば商社なら、30代中盤にもなれば、数十億円のプロジェクトとか、普通に動かしているだろ。小麦の買い付けとか、インフラ関連とかさ。関係者の数も増えるし、投資金額も大きい。そういうのって、25、6歳の経験が浅い社員には無理じゃない。メーカーも同じで、30代中盤にもなれば、プロジェクトは楽に数十億になるし、かなり大きな代理店網の管理をしたりしてる。

中久保:それとは逆に、入社10年しても、担当する業務が飛躍的に大きくなったりしない業界もありますよね。そういうところはどうなんです?

海老原:そう。そういうところは、早く芽が出て、その後は、役職を上ることになる。昔のベストセラーにちなむなら、ゾウの時間・ネズミの時間ってやつだ。

中久保:よくわかりました。事業構造により、成長速度が異なり、当然、昇進スピードが異なるわけですね。

海老原:そこ。本当に大切だよ。だから、自社はどちらのタイプの会社なのかを全ての基本に置くこと。成長スピードの異なる会社でうまくいった手法なんて、参考にもならないんだ。なのに、全く異なる分野の成功策をモノマネする企業がけっこうあってさ。

中久保:流行に流されるのではなく、自社のプロフィールに立ち戻れ、ですね。

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人材投資も「間口×奥行き=面積」で考える

齋藤:で、海老原さん、そろそろボトムアップか、トップエクステンションか、の答えを聞かせてもらえませんか。

海老原:答えは簡単です。どの業界でも、「成長期にある年代にはボトムアップ」「停滞期の年代に入ったらトップエクステンション」。これだけ。

投資価値で考えた育成ポートフォリオ

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投資価値で考えた育成ポートフォリオ

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中久保:あれ?事業によって成長スピードが異なるというのに、答えはどの業界でも一緒って、ちょっとおかしくありません?

齋藤:中久保、お前は大切なこと気づいてないな。私はよくわかります。企業によって違っているのは成長期の長さであり、それが3年で終わる業界もあれば、15年続く業界もある。いずれにしろ、成長期の間はボトムアップがいい、ということですよね。

海老原:ご名答!その通りです。皆が成長し続ける年代であれば、たとえ各人のレベルアップが少しだったとしても、多人数が成長するから、ボトムアップ型が最大の収穫となる。一方、停滞期に入れば、多くの人は成長しなくなるので、芽のあるトップランナーに教育投資をするのが良い。

キャリア類型に応じたボトムアップエクステンション

出典:人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~より

出典:人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~より

キャリア類型に応じたボトムアップエクステンション

出典:人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~より

出典:人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~より

齋藤:マーケティングの論理とよく似てます。購買量×購買単価で売り上げが決まるのと一緒ですね。投資って、間口×奥行きという面積で考えろ、と。

海老原:そうなんです。人数×成長量で考えれば、成長期はボトムアップ、停滞期はトップエクステンションとすぐ答えが見える。まさに、マーケの論理そのものですね。

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中久保:人材投資の考え方、「間口×奥行=面積」わかりやすいたとえでしたね、常に成長している人材への投資をするということ!

齋藤:中久保もだんだん理解してきているな

中久保:成長速度も事業構造によって異なっていました

齋藤:一人前になるのにかかる時間は、企業も人もそれぞれだな

中久保:私は日々レベルアップして、芽のあるトップランナーでもありますよ!!!

齋藤:一人前のとらえ方も人それぞれだな…

shincho