製品開発ストーリー
電極抵抗測定システム 『RM2610』
次世代技術の開発を加速する
“世界初”の測定システム。
製品開発
ESユニット エレメントブロック
Y.K.
2011年入社
学生時代は理論物理学を専攻し、『磁性』と呼ばれる磁石の性質を研究。「こんな磁石を作るためには、こんな設計をすればいい」と、コンピューターによる数値計算の手法で予測するというテーマに取り組んだ。入社後には研究の経験を活かし、製品に搭載された解析機能の開発で中心的な役割を担う。
リチウムイオン電池の開発課題を
画期的な測定技術から解決へ。
日夜進歩するノートPCやスマートフォンにも使用され、性能向上に向けた開発が世界中で加速するリチウムイオン電池。各メーカーで高性能の電池を開発すべく競争が進むなか、課題となっていたのは、電池として一度組み立てなければ性能を評価できないこと。そんな課題を解決したのが、12年にわたる開発の末、2019年に正式リリースされた世界初となる『電池の部品である電極シートの性能を評価できる測定器』です。電極抵抗測定システム『RM2610』の開発初期から中心人物として関わった河室が、開発秘話を語ります。
電池開発のプロセスを変革する、画期的な測定システムを開発。
さまざまな製品に搭載されているリチウムイオン電池は、現在電気自動車への利用で注目を集めています。世界的に環境問題への意識が高まるなか、二酸化炭素を排出しないゼロエミッション車(電気自動車)のニーズも急速に高まるばかり。しかし現状の電気自動車には、1回の充電で走れる走行距離が短いという大きな課題があり、世界中の電池メーカーが高品質なリチウムイオン電池の研究開発を急いでいます。
ところが従来の電池開発では、電極の性能を評価するために、いったん電池として組み立てる必要があり、開発スピードやコストの面でネックとなっていました。電池を組み立てるには非常に多くの工程があります。こうした電池製造の工程を効率化し『電極シート』という部品の段階で材料の採用・不採用を判断できれば、開発スピードを飛躍的に高めコストを抑えられるのです。そこでHIOKIの開発チームが電池メーカーに提案した製品が、“世界初”となる「電極シートの段階で電極抵抗を測定できるシステム」でした。
各部門からメンバーが集い、協業する『コンカレントエンジニアリング』。
メーカーにおける一般的な開発プロセスとしては、技術設計が終わった段階で生産部門に製造を依頼し、その後品質部門が製品を評価するという流れで開発を進めていくと思います。一方、当社では企画段階から技術・生産・品質保証・営業部門の各部門からメンバーが集い、互いに協力しながら開発を同時に進めていく『コンカレントエンジニアリング』という手法を採用しています。
コンカレントエンジニアリングの特長は、多様な知識・経験を持つ仲間たちとの協力により、開発の質が高まること。たとえば技術部門だけで開発を進めようとすれば、設計思想に偏りが出ることがあります。が、営業部門が企画段階から参加していれば、“現場の声”をフィードバックしてお客様のニーズに寄り添った製品開発が可能となります。『RM2610』の開発においても、技術者と営業担当で意見交換を密におこない、プロモーション戦略まで見据えた質の高い製品づくりを心掛けていました。
専門知識を持つ社内技術者との連携し、ユーザーニーズに応える製品を開発。
私が『RM2610』の開発において特に難しいと感じたのは、開発初期の段階で原理検証機を作成する際、未経験分野の技術も必要となったことです。この段階ではまだチームは少人数で、2~3人のメンバーで仮説検証からテストを担います。得意分野の理論物理学を開発に活かしながら、新たな知見の習得が求められる状況です。しかし、異なる専門分野の技術者同士が知識を惜しまず助け合う風土こそHIOKIの魅力。社内の先輩や同僚から広く教えを乞うことで、原理検証機を自力で作り上げることができ、その後の開発工程につなげることができました。
もう一つ、大きな支えとなったのがお客様との関係性です。もともとHIOKIの技術者はお客様と直接話し合う機会が多いという特徴があります。私も試作した計測器を電池メーカーに持ち込んでフィールドテストを行い、お客様の側で感想や要望をダイレクトに聞き取ったり、技術的な議論を交わしたりすることができました。幸いテストの評判は非常に良く、私たちが立てた仮説通りにユーザーニーズがあることがわかりました。
12年の時を経て、ついに製品化!お客様の声を糧に、さらなる高みへ。
2008年に要素技術の開発が始まった後、お客様のもとでフィールドテストをクリアした新型測定システムは、2015年に先行販売が始まりました。ここでもお客様からの好評を得て、製品化が決定。そして開発スタートから12年目となった2019年、ついに『RM2610』の名で正式なHIOKI製品として販売を開始しました。現在も拡販活動は順調に進んでおり、お客様からは「今まで見られなかったデータを数値化できて助かる」「開発効率が劇的に向上した」と高い評価をいただいています。
今回の開発を振り返って強く感じるのは、HIOKIの製品開発は自分自身の成長につながる仕事だということ。『RM2610』の開発を通じて、新たな分野の知識を習得したりお客様との議論を重ねたりと、技術者として貴重な経験を積むことができました。『RM2610』は、今も継続的にお客様から意見をお聞きしながら、製品の改善に取り組んでいます。加速度を増して発展する新たな技術に対応できるよう、これからも可能性を追求し、より魅力ある製品にアップデートし続けていきたいです。
学生の皆さんへのメッセージ
「目的」を明確にして、仕事や企業を選んでください。
私自身がキャリアを考える時に心がけていることは、決断までのプロセスで納得するまで考えること。これにより、「全力で取り組めて楽しかった。充実していた」と思える経験を積 み重ねることができると信じています。
会社選びの際には「手段と目的を取り違えないこと」に気を付けると良いでしょう。私の場合は、「自分の技術で世の中に貢献する」ことが仕事に就く目的でした。そして就職活動を展開し、目的達成のために最も良い環境であるとHIOKIを選びました。皆さんも、ぜひ「人生において本当に実現したいこと」を見つけ出し、それを実現できる会社や仕事を選んでほしいと思います。
開発年表
2008年
要素技術の開発スタート
2011~2014年
試作、および社内での原理検証を実施
2014年
原理検証機完成、フィールドテスト開始
2015年
先行販売開始
2019年
正式製品化。以降、拡販活動を展開
2021年
令和3年度関東地方発明表彰
取得特許:特許第6472664号 測定装置及び測定方法
WORKS
仕事紹介
© HIOKI E.E. CORPORATION