特集02_テビケイ創薬秘話

諦めない、屈しない。研究者の想いが結実した日。

第1話:テビケイ創薬プロジェクト

不治の病としておそれられたエイズ(AIDS/後天性免疫不全症候群)。
だが、目覚ましい技術の進歩により、脅威は克服されつつある。

シオノギが研究開発を手掛けた「テビケイ(Tivicay)」は、エイズの原因ウイルスであるHIV(ヒト免疫ウイルス)の増殖に

必須である酵素「インテグラーゼ」の働きを阻害する治療薬。
配合剤「トリーメク」とあわせ、2015年には全世界で2,390億円を売り上げ、ブロックバスターに成長した。

研究開発に要した期間は20年。

その間、多くの失敗と挫折に見舞われたが、研究者の一途な情熱と自由な企業風土が成功を支えた。

これは、そんな夢を諦めない挑戦者たちの物語である。

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第2話:若手研究員の夢

人間の免疫機構を破壊し、死に至らしめるエイズウイルス発見から数年が経過した1989年。

先陣を切って、シオノギはエイズ治療薬(抗HIV薬)の研究に乗り出した。その後、世界中の製薬会社がこぞって同様の研究に乗り出すが、シオノギは常にその先頭集団の一角を占めていた。当時入社1年目だった吉永智一(現在ウイルス1グループ長)が振り返る。

HIVは、増殖のための必須酵素として3種類の酵素を持っています。シオノギは先ず、そのうちのひとつ逆転写酵素に注目し、非核酸系阻害剤”S1153”を創製し、導出後、次に照準を定めたのがインテグラーゼでした。この酵素の働きを阻害する化合物を見つけだし、HIVの増殖を抑えることでエイズの発症を拒むのが私たちの狙いでした。

研究は順調に進み、1994年にはインテグラーゼの酵素活性を評価するアッセイ系の構築が完了。化合物の合成にあたるケミストと、薬効評価を担当する薬理の専門家を社内横断的に結集してプロジェクトチームが編成され、膨大な化合物ライブラリーの中から有力な候補化合物を見つけ出すスクリーニング作業が始まった。

プロジェクトチームのメンバーは、人類の新たな脅威であるエイズの撲滅という夢を誰もが共有していた。

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第3話:2度の挫折

スクリーニングの結果、弱いながらも確かに効いているヒット化合物がいくつか見つかった。

だが、いずれも構造活性相関の研究段階で思うような結果が得られなかった。業を煮やした上層部から中止勧告が届いたこともあった。

それでもチームの誰も、諦めようとは思わなかったはずです。研究が一歩ずつではあるけれど、着実に前に進んでいることは私たち自身が一番よく分かっていたし、当時の上司が陰ながら上層部の説得に走り回ってくれていることにも励まされました。」(吉永智一)

吉永たちの努力の末、プロジェクトチームは2000年になって、インテグラーゼ阻害剤として世界で最初にヒト臨床試験まで進む“S1360”の創製に成功する。

だが、ここで思わぬ結果が待っていた。“S1360”を人に投与すると、体内に入った途端に速やかに代謝されてしまうことが分かったのだ。これでは医薬品として使えない。チームにとって最初の試練だった。

しかし、ここで諦めれば、努力は全て水の泡と消える。

プロジェクトチームは再度気持ちを奮い立たせ、研究を続行。2008年に新たな候補化合物の発見に至る。“S364735”と名付けられた化合物は、シオノギとして初めて臨床試験でウイルス抑制効果が確認された。

だが、薬の神様は、またしても微笑んではくれなかった。ヒトでは副作用は見られていなかったが、長期の動物での安全性試験で、毒性が認められたのだ。

2度目の挫折。プロジェクトは、もう後がない断崖絶壁に立たされた。

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第4話:ケミストのひらめきが窮地を救った

この窮地を救ったのは、プロジェクトチーム発足時からのメンバーであるケミストのひらめきだった。川筋が率いるケミストたちは、インテグラーゼの働きをつかさどるコア(活性中心)を仔細に観察し、2つのマグネシウムイオンが並んで結合できる特異な分子構造であることに着目して、ある仮説を立てた。

その2つのマグネシウムイオンは、インテグラーゼの働きを作り出す役割を持っています。当時候補化合物として有力視された“S1360”のような初期のインテグラーゼ阻害剤は、2つのマグネシウムイオンにフィットしやすい構造に改良し、マスクをかけるように活性中心を覆ってしまえば、確実にインテグラーゼの働きを抑制できると考えたんです。」(川筋孝)

川筋は、この仮説に基づいて化合物の分子構造式を改良。度重なる実験でトライ&エラーを重ねながらも、遂に新たな化合物モデルをつくり出すことに成功する。そして、それがやがては「テビケイ」として製品化される化合物「ドルテグラビル」の誕生へとつながっていくのである。

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最終話:成功を生み出したもの

ケミストがつくりあげた化合物モデルをベースに、安全性や体内での動態を向上させる改良を加えたドルテグラビルは、2013年12月、『テビケイ』という製品名で上市された。プロジェクトのスタートから、ちょうど20年目のことだった。その間、2度の挫折があり、試行錯誤した化合物は4000種類にもおよんだ。

それでも研究者たちは屈することなく、前だけを向いて歩み続けることをやめなかった。

自らのアイデアで新規に化合物をつくり、薬理に評価してもらって、課題があれば改良を加える。そのプロセスが、私には、たまらなく楽しかった。ただそれだけです。ケミストの自由な研究を尊重し、思う存分に力を出せるシオノギの風土が、テビケイ誕生の一因ではないでしょうか。」(川筋孝)

度重なる失敗に経営上層部から、途中、研究中止勧告も何度かありました。それでも、いつか必ず成功する日が来ることを信じ、多くの人が知らないところで研究を続けた結果が、『テビケイ』につながったのだと思います。」(吉永智一)

テビケイは、抗HIV薬として異例のヒットを記録。次の目標も見えてきた。トリーメクに次ぐ新たな配合剤の既発、根治不可能とされるエイズの特効薬開発という夢も広がる。プロジェクトチームには毎年若い研究者がメンバーに加わり、夢に向かう挑戦がすでに始まっている。

吉永たち研究者の思いは次世代へ受け継がれ、物語に新たなページが書き加えられようとしている。

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