2025.12.19
若手育成の新常識:キャリアアップより“自律型人材”を育てるキャリア開発が重要になる理由
はじめに
採用や育成の現場で、従来の「キャリアアップ」モデルに違和感を覚えることはありませんか?
かつては、昇進や役職に就くことがキャリアの成功とされてきました。しかし今、時代の変化とともに、その価値観は大きく揺らいでいます。若手社員の価値観は多様化し、目標達成や肩書きだけではモチベーションが持続しない――そんな声も多く聞かれるようになりました。
本記事では、「キャリアは“積み上げる”ものから、“育てていく”ものへ」という発想転換を軸に、これからの人材育成・組織づくりに必要な視点を解説します。社員一人ひとりの自律性をどう引き出すか、多様な人材が活躍する土壌をどうつくるか──人事担当者として直面する課題に対し、具体的なヒントとなる内容をお届けします。
INDEX
1. 目標達成が“ゴール”だった時代は終わった
2. キャリアアップ幻想と“カッコよさ”の呪縛
3. 多様な人材が活躍する組織のつくり方
4. 自分の「コアコンピテンシー」を起点に動く
5. キャリアは「アップする」ものではなく「育つ」もの
6. 企業が変わらなければ、優秀な人材は海外へ流出する
サービス紹介
1. 目標達成が“ゴール”だった時代は終わった
1-1. キャリアは「達成するもの」から「育てるもの」へ
かつては、安定した社会の中で、「目標を定めて努力し、成果を出すこと」がキャリア成功の王道とされてきました。
“出世”“昇進”“成果”──これらを手にすることが人生のハイライトだったのです。
しかし現代は、テクノロジーや社会構造の変化が激しく、目標達成までに時間がかかるほど、到達した時点でその目標自体の価値が薄れてしまうことも少なくありません。
キャリアとは、もはや「計画的に積み上げるもの」ではなく、「変化に応じて柔軟に育てていくもの」になったのです。
これからの人材は、「目標達成までの努力」ではなく、「目標達成後に何を学び、どう動くか」という姿勢が問われます。
1-2. 目標達成後に必要な「努力の方向性」とは
ありがちなのは、目標を達成したことで満足してしまい、その後の成長が止まってしまうケース。
「自分は優秀だ」「もうゴールに到達した」と思い込むことで、むしろキャリアを狭めてしまうリスクがあります。
大切なのは、目標達成をゴールではなく“スタートライン”と捉えるマインドセットです。
その後も継続的に努力を続けられる人には、次のステージが用意されており、本人も周囲も成長していきます。
また、その努力の方向性も重要です。「自分がキャリアアップしたいから」ではなく、「誰かのため、社会のため、顧客のためにどう貢献するか」という“外向き”の努力こそ、信頼とキャリアを呼び込む原動力になります。
1-3. 成功する人の共通点:「なってから努力する」感覚
実際に活躍している人の多くは、「まずなってみてから努力する」タイプです。
たとえば、たまたまコンサルタント職に就いた人が、実際に現場で手応えを感じ、そこから本気で努力を重ねていく──そのようなプロセスを経て、自律型人材へと成長していきます。
一方で、「この職種になりたい」と強く願い、努力を重ねて“なった”のに、いざそのポジションに就いた途端、成長が止まってしまう人もいます。これは「なること」が目的になってしまっているからです。
「やってみてから本気になる」
「環境に応じて自分を育て直す」
こうしたしなやかな姿勢を持つ人が、結果として最も力を発揮し、変化の激しい社会の中でキャリアを持続的に育てていけるのです。
2. キャリアアップ幻想と“カッコよさ”の呪縛
2-1. 「収入・知的・グローバル」がつくった固定観念
「キャリアアップしたい」と語る人の多くは、ある種の“カッコよさ”をイメージしています。
たとえば、
- 高収入であること
- 知的な職業に就いていること
- 海外で英語を使いながら働いていること
──この3つのいずれか、または全部を満たしていれば「キャリアアップできている」と感じる。そんな風潮が、日本の社会には長く根付いてきました。
しかし、これらはあくまで表面的な“演出”にすぎません。本来キャリアは、肩書や見た目のかっこよさではなく、「どれだけの価値を周囲に提供しているか」「どれだけ周囲から信頼されているか」によって築かれていくべきものです。
「キャリアアップしたい」という気持ちが、実は「人からカッコよく見られたい」という承認欲求の延長にあるとしたら──それは長続きしない“見せかけのキャリア”になってしまう可能性もあります。
今必要なのは、“見た目のキャリア”から“意味あるキャリア”への発想転換です。
2-2. 評価軸が少ない組織は人材不況を生む
キャリア形成をめぐる問題は、個人だけに留まりません。むしろ、企業や組織の中にこそ、キャリア開発を阻害する“構造的な課題”があります。
そのひとつが、「評価軸の少なさ」です。
たとえば、「とにかく数字を出す人が評価される」「売上がすべて」という一本化された評価制度のもとでは、多様な才能や可能性が埋もれてしまいます。
昔の学校のように、「歌が上手い」「運動ができる」「人を笑わせるのが得意」など、いろいろな軸で評価されていた環境では、誰もが何かしらの“強み”を発揮できました。
しかし、今の多くの企業では「一つの評価軸=収益貢献力」に偏ってしまっており、それが“人材不況”を引き起こしている原因にもなっています。
組織に多様な人材がいれば、さまざまな課題に柔軟に対応できます。逆に、同じタイプの人材だけが集まった組織は、時代の変化に対応できず、競争力を失っていくのです。
2-3. 「四つの幸せ」がそろってこそ、キャリアは開発される
キャリア開発というと、「自分にとって意味があるか」「自分が成長できるか」といった“自己中心的な基準”になりがちです。
もちろん、自分が幸せを感じられるかは大切な要素です。しかし、それだけでは“自己満足”に留まってしまい、周囲と調和したキャリアにはなりません。
本質的なキャリアとは、次の「四つの幸せ」がそろって、初めて“育成された”と言えるものです。
- 自分にとっての幸せ(やりがい、達成感、成長実感など)
- 家族や大切な人にとっての幸せ(時間、安心、応援したくなる環境など)
- 顧客・社会にとっての幸せ(価値提供、課題解決、信頼など)
- 所属する組織にとっての幸せ(成果、貢献、組織活性など)
この4つがある程度そろってこそ、キャリアは「他者に開かれた形」で開発されていきます。
最初から全てを満たす必要はありません。まずはどれか一つを大切にしながら、少しずつ他の“幸せ”にも波及していけるような努力が、結果としてキャリアの広がりや深みにつながっていくのです。
3. 多様な人材が活躍する組織のつくり方
3-1. 同じスキル構成では、序列が生まれ、組織が硬直化する
多くの企業で見られる問題の一つに、「同じスキルセットを持つ人材ばかりが揃っている」ことがあります。すると、自然とその中で誰が一番うまいか・誰が劣っているかという序列が生まれ、組織は“競争”よりも“消耗戦”のような状態になります。
このような組織では、以下のような課題が起きやすくなります。
- レベルの違いによって仕事の割り振りが固定化される
- 若手が優秀すぎると年長者との摩擦が起きる
- 顧客との信頼構築が属人化し、後続の担当者が育ちにくい
つまり、組織としての柔軟性や再現性が失われていくのです。
これに対して必要なのは、「同じスキルを高め合うチーム」ではなく、「異なるスキルを補い合うチーム」への転換です。スキルの種類が多様ならば、そもそも順位がつかず、尊重し合う関係性が生まれやすくなります。
3-2. 多様性とセルフマネジメントが“信頼”を生む
多様性を活かすために必要なもう一つの要素が、「セルフマネジメント力」です。
自律型人材とは、決められたことをこなすだけでなく、自ら課題を見つけ、優先順位をつけて実行できる人のことです。
多様なメンバーがそれぞれのやり方・価値観で動いていたとしても、全員がセルフマネジメントできていれば、衝突するどころか、互いの“違い”を戦力として活かすことができます。
結果として組織内には、「あの人は〇〇がすごい」「この人には△△で頼れる」といった信頼が蓄積されていき、心理的安全性の高い、強いチームがつくられていくのです。
3-3. 企業がすべきこと:自律型人材を生む土壌づくり
では、どうすれば自律型人材を育て、活躍できる土壌をつくれるのでしょうか。
ポイントは「新卒=白紙」という思い込みを捨てることです。
多くの日本企業では、新卒社員に“雑用”や“型通りの仕事”しか与えず、自分で考える機会を奪ってしまいがちです。その結果、受け身で主体性のない人材ばかりが育ってしまいます。
しかし実際には、若い人ほど柔軟な発想力や新しい視点を持っているもの。まずはある程度の裁量と課題を与え、失敗も経験させながら、少しずつ自分で判断し行動する力を養っていく必要があります。
たとえば…
- 成果よりも「意思決定のプロセス」を評価する
- 「やらされ感」より「自分で決める体験」を重視する
- 異質な人材と組ませて、価値観の多様性に触れさせる
こうした環境づくりを通して、自律型人材は育っていくのです。
4. 自分の「コアコンピテンシー」を起点に動く
4-1. 得意なことは変化してもいい
キャリアを考えるうえでまず重要なのは、「自分の得意なこと=コアコンピテンシー」を見つけることです。
ただし、それは一生変わらない“天職”である必要はありません。
人生のフェーズや環境の変化によって、「得意なこと」も「やりたいこと」も少しずつ変わっていくのが自然です。
まずは今の自分が、「どんなときに成果が出せたか」「どんな仕事に集中できたか」を振り返りましょう。そこに、あなたならではのコンピテンシーのヒントがあります。
そのうえで、「それを活かせる仕事」「貢献できる場」を見つけ、行動を起こしていく──それが、無理なくキャリアを育てていく第一歩です。
4-2. 小さく試して確かめる、「試運転キャリア」のすすめ
多くの人がキャリアで失敗してしまう原因は、「思い込み」と「過度な期待」です。
「これが天職だ!」と思い込み、いきなり今の仕事を辞めて新しい道へ飛び込んだものの、「思っていたのと違った…」ということはよくあります。
そんなリスクを避けるために有効なのが、「試運転キャリア」という考え方です。
- まずは、副業・社内異動・社外プロジェクトなど、小さく試せる場で経験してみる
- 感触を確かめ、合っていると感じたら本格的にシフトする
これだけで、キャリア選択の精度は大きく高まります。
4-3. “時節”を見極める力とは:過度な期待に要注意
キャリアの転機を成功させるうえで欠かせないのが、「時節(=タイミング)」を見極める力です。
うまくいく人は、「時が来るのを待ち、来たときに全力を出す」という動き方をしています。一方、失敗しやすい人は、焦りや期待から「まだその時ではない」のに動いてしまうのです。
その差を分けるのは、「結論が出ていない状態に耐えられるかどうか」。
何か新しい方向性を見つけたとき、すぐに飛びつくのではなく、「これは本当に自分に合っているか?」と冷静に見つめ、試しながら判断する。
この“期待を手放す冷静さ”こそが、キャリアの成功確率を高めるカギになります。
5. キャリアは「アップする」ものではなく「育つ」もの
5-1. キャリアアップ=自己実現ではない理由
「キャリアアップ=ポジションアップ=成功」という公式が、かつての常識でした。
しかし今、その考えは確実に変わりつつあります。
昇進・昇格しても、仕事が苦痛になったり、家庭が犠牲になったりすれば、それは本当に“成功したキャリア”と言えるでしょうか?
肩書きや年収が上がったとしても、それが本人の幸せや納得感と一致していなければ、単なる“役割の変化”に過ぎません。逆に、ポジションは変わらなくても、仕事に誇りを持ち、周囲にポジティブな影響を与えられていれば、それは確実に「キャリアが育っている」状態です。
キャリアは“アップするもの”ではなく、“育っていくもの”。
その認識を持つことが、採用後の人材育成や評価のあり方を変える第一歩になります。
5-2. 「キャリアディベロップメント」視点で考える
心理学の分野では、「キャリアアップ」という言葉よりも「キャリアディベロップメント(キャリアの発達・育成)」という言葉が主流です。
この視点に立つと、キャリアとは外から見える成功ではなく、内側から積み重ねていくものだということがわかります。本人の価値観や成長の段階に合わせて、少しずつ形づくられる“生きたプロセス”なのです。
企業としても、社員一人ひとりの「キャリアディベロップメント」に目を向けることで、表面的な出世競争ではなく、「自分の強みをどう活かすか」という本質的な育成と配置が可能になります。
5-3. 成長とは「顧客・家族・組織」すべてが幸せになること
真のキャリア開発は、自己満足だけでは成立しません。
どんなに本人が「楽しい」「やりがいがある」と思っていても、それがまわりに貢献できていなければ、単なる趣味と変わらない場合もあるのです。
キャリアが「育つ」とは、以下の4つの幸せを満たしている状態です
- 自分自身が幸せであること
- 家族や大切な人が幸せであること
- 顧客や社会にとってプラスであること
- 所属している組織にとって有益であること
この4つが重なったところに、“意味のあるキャリア”が生まれます。
企業としても、これら4つの視点を育成や評価に取り入れることで、「組織と個人の幸せが一致した働き方」を実現できるようになります。
6. 企業が変わらなければ、優秀な人材は海外へ流出する
6-1. 「安定雇用」は幻想、今こそ企業が投資すべきタイミング
「終身雇用」や「安定したキャリア」が当たり前だった時代は、すでに過去のものとなりました。
変化が激しい今の時代では、企業も個人も、絶えず環境に適応し続けなければ生き残ることができません。
しかしながら、多くの企業ではいまだに「現状維持」を前提とした人材マネジメントが根強く残り、特に若手人材の成長に対して本気で投資できていないケースが目立ちます。
今こそ、人材への投資を「コスト」ではなく「資本」として捉える転換点です。
研修やキャリア支援、副業制度などは短期的な成果が見えづらいものの、長期的には採用力・定着率・生産性を大きく向上させ、組織全体の競争力につながります。
6-2. 若手人材の不信感がもたらす未来:人材空洞化のリスク
今の若手は、企業の価値観やキャリアパスをよく見ています。
「この会社では成長できない」「評価が偏っている」と感じた瞬間に、声を上げることなく静かに離れていく——そんな現象がすでに始まっています。
企業が旧来型の人材戦略にとどまっていると、やがて優秀な人材は成長機会を求めて海外へと流出するか、起業・独立という道を選ぶようになります。
これは一人ひとりのキャリアの話にとどまりません。企業、そして日本全体の競争力が奪われていくことにつながる、深刻なリスクだと捉えるべきです。
6-3. “裁量ある経験”が経営感覚を育てる最短ルートになる
多くの企業では、部署や役職に関係なく同じような業務経験を積ませる“横並びのキャリア設計”が一般的です。
しかし、自律的に動ける人材を育てたいのであれば、それでは不十分です。
本当の意味で経営感覚を養うには、次のような「裁量ある経験」が必要です
- 少人数のプロジェクトチームを任せ、目標達成までの意思決定を体験させる
- 社外活動や副業を通じて、異なる業界・価値観との接点を持たせる
- 部門横断型のミッションでリーダーを務め、全体を俯瞰する視点を育てる
こうした経験を通じて、社員は「自分で考え、動かし、結果を出す」という経営の感覚を身につけていきます。
このような視点を持つ人材が社内に増えれば、組織全体の判断力・柔軟性が高まり、変化への対応力が格段に向上します。それこそが、企業の競争力を本質的に高めるカギになるのです。
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ご紹介
コンピテンシー適性検査『A8』では従来の「能力」だけでなく、実際に成果を生み出すための行動特性(コンピテンシー)を測定します。単にスキルがあるかだけでなく、記事でお伝えしたような「自ら考え、行動し、成果に向かう推進力」を持った人材かどうかを見極めることが可能です。
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コンピテンシー適性検査 Another8
ジョブ・クラフティング
適性検査 Q1
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