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2025.12.05

表面的な印象に惑わされない採用へ― “行動プロセス”から人材を見立てる方法 ―

はじめに

「育成に時間をかけているのに、なぜか伸び悩む」「採用時は良さそうだったのに、いまひとつ発揮しきれない」──そんな人材に、思い当たることはないでしょうか。スキルや知識の不足ではなく、もっと別の“見えにくい要因”が、成長や活躍を左右している──そう感じる場面が増えています。本記事では、人が本来持つ可能性をどう引き出すか、そして採用や育成のどの場面で何を見極め、どのように関わるべきかを、最新の知見と実践例をもとに解説していきます。

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1. 人材レベルで見る成長の段階

1-1. 多くの企業が「レベル3で止まる人材」に悩む理由

「ちゃんと仕事はできる。でも、いつまで経っても新しい視点や変化を起こせない」。
そんな人材に頭を悩ませている採用・育成担当者は少なくありません。丁寧で真面目、組織のルールをしっかり守って仕事を進める。しかし、状況が変わったときには受け身になり、新たな一歩が踏み出せない──。
実はこうした人材は、「レベル3」に留まっている状態です。これは悪いことではなく、むしろ多くのビジネスパーソンが目指すべき安定した水準です。ただし、組織に変化や革新が求められる今の時代、「レベル3止まり」では通用しないシーンも急増しています。
次世代のリーダーを担える人材がなかなか見つからない。育てたはずの若手が“急に伸び悩む”。そんなとき、育成や制度ではなく「人材レベルの見極め」にヒントがあるかもしれません。

1-2. レベル4・レベル5は“独自の判断”で未来をつくる

「レベル3」から次の段階へ進むには、外から与えられた役割や価値観ではなく、自分の意思や独自の判断で行動できる力が必要です。ここで一度、人材の成長レベルを整理してみましょう。

レベル 行動の特徴 動機 特徴
レベル1 指示を受けて動くだけ 不安 受け身・環境依存
レベル2 役割を自律的に遂行する 価値観 形式的な自律性
レベル3 状況に応じた判断で動く 能力 安定行動だが枠内思考
レベル4 状況そのものを変える 意思 自律・柔軟・変容力
レベル5 新しい状況を創り出す 高次の自己実現 創造・牽引・革新

レベル4以降では、組織や状況の枠組みそのものに働きかけ、新たな価値を創り出す行動が求められます。そこにあるのは、他者から与えられる価値観ではなく、本人の内側から湧き出る「こうしたい」「こうあるべきだ」という意思です。
こうした高次レベルの行動を発揮する人材は、決して多数派ではありません。だからこそ、採用の時点で「その素地があるか」を見極めることが、育成よりも重要な局面になります。

1-3. なぜレベル4以上は「育てる」だけでは到達しないのか?

多くの企業が犯しがちな落とし穴が、「レベル4・5の人材を育成でつくろう」としてしまうことです。
たしかに、レベル1から3までは、環境やトレーニングで十分に育成が可能です。しかし、レベル4以上はまったく別物。「教える」ことでその独自性が失われてしまうというジレンマがあるのです。
たとえばレベル4の行動は、「自分なりに工夫して、状況そのものを変えようとすること」です。これは「正解を教える」ことでは再現できません。教えてしまった瞬間、それは“他人のやり方”になってしまい、「独自性」は失われてしまうのです。
だからこそ、レベル4以上の人材に必要なのは「教えること」ではなく、内側から“引き出す”こと。次章では、この「引き出す育成法」について、コーチングの最新理論を踏まえて紹介していきます。

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2. 最新の育成論:「引き出す」から始まるレベル4・5開発

2-1. トップアスリートにも“助言できないコーチ”が存在する理由

世界で活躍するトップアスリートの多くに、専属のコーチがいます。しかし、彼らに「技術」を教えることができる人がいるでしょうか?
実際、彼らのコーチは「助言する人」ではなく、「引き出す人」です。選手の言葉を聞き、振り返りを促し、自分で答えにたどり着く手助けをする──これが、現代のコーチングの本質です。
育成の現場でも同じことが言えます。指導ではなく、内省を促す関わりが、次の成長ステージを切り拓くカギなのです。

2-2. 「自分で気づき、自分で選ぶ」内省が行動を変える

人は、自分の思考や感情を「言語化」することで、自ら気づきを得て、行動へとつなげます。このプロセスを意図的に支援するのが、コーチングの役割です。
たとえば、「なぜそう思ったのか」「どうしてその行動を選んだのか」といった問いを投げかけ、本人が自分の内側を振り返ることによって、自律的な判断と行動が生まれます。
このような内省を重ねることで、本人のなかにあった「意思」が表出し、レベル4・5の行動につながっていくのです。

2-3. “育つ力”を刺激する関わり方とは?

レベル4以上の人材を育てる鍵は、「育てる」ではなく「育つ」環境を用意することです。

そのために必要なのは、次のような関わり方です。

  • 繰り返し:相手の言葉をそのまま繰り返すことで、本人が自己理解を深める
  • 明確化:話の要点を整理して返すことで、思考が整理される
  • オープンな質問:イエス・ノーで終わらない問いで、深い内省を引き出す

これらは一見地味なコミュニケーションに見えますが、極めて強力な「引き出す技術」です。
従来の「評価」や「指導」に比べて、こうした関わり方ができる人材がチームに増えれば、組織全体の自律性と創造性が大きく変わります。次章では、こうした“引き出せる人材”を、採用段階でどう見極めるかを深掘りします。

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3. 採用段階で見極める「伸びる人材」の特徴

3-1. 表面的なコミュニケーションでは見えない“行動の源泉”

面接や面談での受け答えが丁寧だったり、話し方がしっかりしていると、「この人は成長しそうだ」と感じることがあります。しかし、そうした表面的な印象だけでは「伸びる人材」を見抜くことはできません
重要なのは、本人の行動の背後にある「動機」や「判断の質」、つまり、なぜそのように動いたのかという“行動の源泉”にあります。
レベル3までの人材は、価値観や能力に沿って動いていますが、レベル4以上の人材は、状況そのものを変えようとする「意思」や「目的意識」を持って動きます。その違いは、話の内容を深掘りすることでしか見えてきません

3-2. 面談で見抜けない「意図」「価値観」「判断の質」

採用面接で「最近頑張ったことを教えてください」と聞くと、ほとんどの応募者はスムーズにエピソードを語ります。しかし、その中身を注意深く聞くと、行動の「目的」や「工夫」が語られていないケースが多々あります。
レベル1〜2の人材は、与えられた課題に対して「頑張った」「調べた」「努力した」といった抽象的な表現を使いがちです。逆に、レベル4に近い人材は、自分の判断や工夫、状況変化への対応を具体的に語れます。
たとえば、「○○という状況だったので、△△を工夫し、結果的に××を変えることができました」といった形で、因果関係がはっきりしている人は、伸びる素地を持っていると言えるでしょう。

3-3. 適性検査が明らかにする“レベル4に伸びる素地”

とはいえ、限られた面接時間でそこまで深掘りするのは難しい場面もあります。そこで役立つのが、行動の傾向や思考の癖を客観的に測る適性検査です。
適性検査では、単なる性格診断とは異なり、「どんな状況でどう判断するか」「変化を前向きに受け入れられるか」「周囲の影響をどう捉えるか」といった深層の思考・行動パターンを捉えることができます。

特に注目すべきは、以下のような特性です

  • 主体性や内発的動機の有無
  • 問題解決における柔軟性と創造性
  • 社会的文脈の中での適応力と変容力

これらの指標が高い人は、将来的にレベル4の「状況を変える力」を発揮できる可能性が高いといえます。表面的な「感じの良さ」よりも、“素地”を見極めることが重要です

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4. レベル4を引き出す「受容的コミュニケーション」

4-1. “聞く力”が変える行動の質

レベル4以上の人材を育てるには、「教える」のではなく「引き出す」ことが欠かせません。そのカギを握るのが、“受容的な聞き方”です。
受容的な聞き方とは、「評価せずに、相手の話を丸ごと受け取り、深く理解しようとする姿勢」を意味します。これは、ただ黙って聞くのとも、相槌を打つのとも違います。目的は、相手が自分自身の考えに気づき、自発的に行動を選び取る状態に導くことです。
上司や面接官がこの聞き方を実践できると、部下や応募者のなかにある「育つ力」が動き出します。

4-2. 反復・明確化・オープン質問の三つの技法

🟠反復(リフレクション)

相手が言ったことを、そのままの言葉で繰り返す

例:「すごく腹が立ったんです」→「腹が立ったんですね」
繰り返すことで、相手自身が言葉を“鏡”のように受け取り、思考の整理が始まります。

🟠明確化(要約・言い換え)

話の要点を自分の言葉で整理して返す

例:「つまり、こういう背景があって、○○に至ったということですね?」
話の全体像を把握させ、自分の思考を俯瞰できるようになります。

🟠オープン質問(拡散型の問い)

イエス・ノーで答えられない、自由に語れる問いを投げかける。

例:「その時、あなた自身はどんなふうに感じていましたか?」
人は質問に答える過程で、自分の意思や判断を見つめ直します。行動の背景にある“なぜ”を掘り下げる質問こそ、レベル4への橋渡しになります。

4-3. 面接官や上司がやりがちな「気づきを潰す」NG行動

せっかく本人の気づきが生まれようとしているのに、こちら側の“口出し”がそれを潰してしまう場面は少なくありません。

以下はよくあるNG行動です:

  • 「もっとこうすればよかったんじゃない?」と“答え”を与えてしまう
  • 「それは間違ってるよ」と価値判断で返す
  • 「あいつのせいじゃない?」と責任の方向を変える

こうした関わりは、相手の内省を止めてしまい、自ら考えるプロセスを奪ってしまいます
育つ人材を見極め、伸ばしていくためには、指導よりも「対話」。その質を高めることで、本人の中に眠る可能性が自然と動き始めます。

5. コンピテンシー・インタビューで成長を加速させる

5-1. 時系列で行動と意図を掘り起こす方法

「人は、自分の行動を振り返ることで成長する」とはよく言われますが、ただの“反省”ではレベルアップにつながりません。重要なのは、「どのような状況で、何を考え、どのように行動したのか」を時系列で掘り起こすことです。

ここで効果的なのが「コンピテンシー・インタビュー」です。これは、過去の成功体験やチャレンジをもとに、以下のような流れで深掘りしていく手法です。

  1. どんな課題・状況に取り組んだか?
  2. 最初にどんな行動をとったか?
  3. その結果、何が起きたか?
  4. 次にどんな判断・工夫をしたか?
  5. 一連の行動に、どんな意図や判断があったか?

このように、プロセスを順にたどりながら行動と思考を可視化することで、本人の中にある「判断力」「創意工夫」「価値観の軸」が立ち上がってきます。これが、レベル4への成長に欠かせない“内的資源”です。

5-2.  ハイパフォーマーに共通する3つの特徴

多くの企業でコンピテンシー・インタビューを実施してみると、成果を出す人にはいくつかの共通項があることが分かっています。

中でも特に顕著なのは、以下の3点です。

① 行動を鮮明に覚えている

レベル4以上の人材は、「なぜその行動を取ったのか」「そのとき何を考えていたのか」を明確に記憶しています。自らの意思で状況を動かした経験は、強く記憶に残るからです。

② 行動の種類が豊富

成功パターンを一つに固定せず、状況に応じてアプローチを変える柔軟さがあります。いわば、「引き出しの多さ」が、レベル4以上の鍵です。

③ 意図と工夫が言語化できる

「どう考えてその工夫をしたのか?」と問われたとき、すぐに具体的な説明ができる。これは、自らの行動を“主体的に設計している”証拠でもあります。

5-3. 自社に「レベル4・5に育つ人材」を増やすループをつくる

一人のレベル4人材を育てることは重要ですが、組織においては「仕組みで再現できるかどうか」が本質です。

そのために必要なのは:

  • 振り返りの機会を定期的に設ける
  • 上司や育成担当がインタビュー技法を学ぶ
  • 他者の成功行動から“具体的な行動例”を共有する

こうした取り組みが回り始めると、「気づく → 試す →共有する →また気づく」という学習のループが生まれ、自然とレベル4・5に向かう人材が増えていきます。
重要なのは、「能力を見極めて採る」よりも、「成長する機会と関わり方を設計する」という視点です。

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6. 上司はコーチになれるのか?

6-1. 利害関係がもたらす「感情の壁」

「コーチングが大切だ」といくら言われても、現場の上司の多くが抱える悩みがあります。それは、「自分は部下に対してフラットに関われない」というものです。
これは当然のことで、上司と部下は評価と報酬で結ばれた利害関係にあります。相手の話をただ受け止めようと思っても、「どうしてそんなことができないんだ」「それでは評価に値しない」といった感情が、無意識に出てしまうのです。
このような感情は、表情や態度、言葉の選び方に必ずにじみ出ます。そしてそれが、部下の“本音を引き出す場”を閉ざしてしまうのです。

6-2. 上司が担うべきは“教えること”ではなく“環境をつくること”

では、上司には育成の役割は果たせないのでしょうか。答えは「教える」ことから「環境をつくる」ことへ、役割を変えることです。

具体的には、

  • 挑戦の余地がある仕事を任せる
  • 振り返りの対話ができるタイミングを設ける
  • 部下にとっての“話しやすい”第三者(社外メンター等)をつなぐ

といったことです。

上司がすべての育成を担うのではなく、「成長が起こる土壌」を整えることに専念する。これが、現代の組織における現実的かつ効果的な育成スタンスです。

6-3. 上司自身がレベル4に踏み出すことが最大の育成効果

忘れてはならないのは、部下の育成において最も効果があるのは、上司自身がレベル4を体現することです。

  • 状況をただ受け入れるのではなく、自ら動いて変えていく
  • 組織に必要なテーマを自分でつかみ、周囲を巻き込んで動く
  • 部下に試行錯誤の余地を残し、自分も共に学び続ける

このような上司の姿は、部下にとっての“ロールモデル”となります。そして、「ああ、自分もあんな風に働きたい」と感じることが、もっとも強い育成インセンティブになるのです。

組織を変えるのは、教育制度ではなく、ひとりひとりのあり方です。まずは、上司自身が次のステージに踏み出すこと。それこそが、レベル4・5人材を育てる最初の一歩です。

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THEME 01

サービスの
ご紹介

レベル4・5に育つ人材は、単なるスキルや意欲では測れません。重要なのは、「なぜそう動くのか」「状況を変えようとする意思があるか」といった行動の“内的ドライバー”です。TG-WEBのA8は、こうした“行動の源”に焦点をあてた適性検査です。判断の癖、影響の受け方、変化へのスタンスなどを可視化し、将来的に自律的・創造的に動ける人材かどうかを見極めます。面接では見えづらい“伸びしろ”を把握したい場面で、有効に機能します。次世代人材の採用に、ぜひご検討ください。

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