2025.11.28
入社後に伸びる人を見抜く採用術|“4つの動機”から行動特性を評価するコンピテンシー思考
はじめに
「面接では良い印象だったのに、入社後に思うように活躍できない」──採用の現場では、こうした声があとを絶ちません。
学歴やスキル、受け答えの印象だけでは測れない“何か”が、現場での成果を左右している。そこで注目されているのが、成果を生む行動=コンピテンシーです。
本記事では、人の行動を決定づける「4つの動機」と、それに基づく5段階の行動レベルに注目し、どのような人材が変化の時代に活躍し続けるのかを、採用・育成の視点から紐解いていきます。
スキルの有無や経験年数よりも、「なぜその行動をとるのか?」という視点を持つことが、これからの人材見極めの鍵となります。“人物の見方”を一歩深めたい採用担当者の方に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
INDEX
1. コンピテンシーとは「成果を生む行動」
2. 行動を決める「4つの動機」とその違い
3. 「不安」が動機の行動──成果にならない理由
4. 「価値観」に支配された行動の限界
5. 「能力」を起点とした行動はどう評価する?
6. レベル4──“意思”に基づいた行動とは?
サービス紹介
1. コンピテンシーとは「成果を生む行動」
1-1. コンピテンシーの定義と企業における重要性
採用や人材開発の現場で頻出する「コンピテンシー」という言葉。これは単なるスキルや成果ではなく、「成果を生み出す行動特性」を指します。
つまり、「できる人材」ではなく、「どう行動して成果を出しているか」に焦点を当てた考え方です。
これまでの採用では、学歴や職歴、面接の印象といった表面的な情報に頼ることも少なくありませんでした。しかし、働き方が多様化し、正解のない課題が増える今、そうした手法だけでは“活躍人材”の見極めが難しい時代に入っています。
その中で注目されているのが、「再現性のある成果行動=コンピテンシー」です。特に企業が本当に必要としているのは、「能力が高い人」ではなく、どのような環境でも自律的に成果を生み出せる人です。
そのためには、スキルや経験よりも、「どのような動機で、どのレベルの行動をとれるのか」という視点が欠かせません。
1-2. 「キャラクター」ではなく「パーソナリティ」を見る理由
面接の場では、どうしても「感じの良い人」「元気で明るい人」など、表面的なキャラクターに注目が集まりがちです。しかし、キャラクターとは、その場の振る舞いや印象にすぎません。
一方で、パーソナリティは行動の裏にある“動機”や“思考の癖”を含んだ深層的な特性です。
たとえば、「とても積極的な学生」だと評価されても、その行動が「嫌われたくないから」「無視されるのが怖いから」といった不安ベースの動機によるものであれば、環境の変化に弱く、成果が再現されないリスクがあります。
つまり、表面に現れる「性格の良さ」や「元気さ」ではなく、「その行動はなぜ起きたのか」という内側にある動機の構造=パーソナリティに注目することが、人材の見極めでは非常に重要になります。
1-3. 行動の背後にある“動機”を見抜くことの意味
一見同じように見える行動でも、その背後にある動機によって、安定性・再現性・成長可能性が大きく異なります。
たとえば、「指示を的確にこなせる人」がいたとして、その動機が「怒られたくない(不安)」であれば、上司が変わったり、期待値が曖昧になった途端にパフォーマンスが崩れることもあります。
逆に、「自分がこの仕事を進めたいから」という意思に基づいた行動であれば、多少の困難があっても自律的に乗り越えることができます。
採用現場でよく聞かれる、
「いい人材だと思ったけど、異動したら急に元気がなくなった」
「前の部署では成果が出ていたのに、別環境ではまったく動かない」
こうした“ミスマッチ”の多くは、行動の背後にある「動機の質」を見抜けていなかったことが原因です。
1-4. コンピテンシーを5段階の行動レベルで捉える
本記事では、行動の質を「5段階のレベル」で捉えます。これは単なる優劣ではなく、「どのような動機で行動しているか」×「どこまで環境に影響を与えるか」という観点で整理されたものです。
| レベル | 行動の特徴 | 動機 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| レベル1 | 指示を受けて動くだけ | 不安 | 受け身・環境依存 |
| レベル2 | 役割を自律的に遂行する | 価値観 | 形式的な自律性 |
| レベル3 | 状況に応じた判断で動く | 能力 | 安定行動だが枠内思考 |
| レベル4 | 状況そのものを変える | 意思 | 自律・柔軟・変容力 |
| レベル5 | 新しい状況を創り出す | 高次の自己実現 | 創造・牽引・革新 |
レベル1〜3までは、「状況に従って行動している」状態です。このタイプは、状況が良ければ成果を出しますが、環境が変わればパフォーマンスも変動しやすくなります。
一方、レベル4以上になると、「状況に働きかけ、変えていける人材」です。変化が当たり前の今、企業が真に求めるのはレベル4行動を安定的に出せる人材であると言えます。
2. 行動を決める「4つの動機」とその違い
2-1. 不安・価値観・能力・意思──行動を突き動かす原動力
前章で述べたように、同じ行動でも“どのレベル”で行われているかによって、成果の再現性や応用力には大きな差が生まれます。そして、その行動レベルを左右するのが「動機の質」です。
人の行動を生み出す動機は、大きく以下の4つに分類されます:
- 不安:やらないと怒られる、評価が下がるという恐れ
- 価値観:「こうあるべき」「普通はこうだ」という思い込み
- 能力:自分のスキル・知識を活かしたいという欲求
- 意思:自分で決断し、状況を変えたいという主体的判断
これらはピラミッド構造のように下から上へと安定性が高まり、より創造的・柔軟な行動を支える原動力になります。つまり、同じ成果を出しているように見えても、「なぜそれをやっているのか」で評価すべき行動の質は変わるのです。
2-2. パーソナリティ×動機が、行動の“レベル”を決める
コンピテンシーとは行動のこと。そしてその行動の“深さ”や“安定性”を決めるのが、パーソナリティと動機の掛け合わせです。
たとえば、同じように「新しい提案」をしている人がいたとしても、以下のように動機が異なれば、行動の本質も大きく違います。
- 「失敗したら評価が下がるから…」 → 不安
- 「自分のチームなんだから提案すべき」 → 価値観
- 「習ったことを現場で試したい」 → 能力
- 「自分の意思で挑戦したい」 → 意思
表面上の行動は同じでも、不安ベースの行動は、環境が変わればすぐに崩れ、意思ベースの行動はどんな状況でも継続しやすいのです。
このように、行動のレベル(レベル1〜5)を見極めるうえでは、「行動の裏にある動機」が何なのかを捉えることが必要不可欠です。
2-3. いま求められる「自律的動機」に着目した人材観とは
変化が激しく、答えのない時代において、多くの企業が求めているのは「自律的に考え、動ける人材」です。ここでカギになるのが、“自律的動機(autonomous motivation)”という概念です。
自律的動機とは、外部のプレッシャーや評価ではなく、「自分で選び、決断し、行動する」という内発的な動機のこと。これは、先述の動機分類でいえば、まさに「意思ベース」の行動です。
このような人材は:
- 指示がなくても自ら動く
- 難しい状況でもあきらめず、改善を試みる
- 失敗やフィードバックから学び、行動を修正できる
つまり、コンピテンシーレベル4以上の行動を安定して出せる人材なのです。
採用や育成の現場では、つい「能力」や「経験値」に目が行きがちですが、それ以上に、「どの動機でその行動をしているのか」という視点を持つことで、入社後に活躍する人材を見抜ける可能性が高まります。
3. 「不安」が動機の行動──成果にならない理由
3-1. コンプレックスベースの行動に見られる3パターン
不安を原動力とする行動は、表面的には積極的に見えることもありますが、その内側では「やらないと不安」「認められないと怖い」といった心理的な圧力が強く働いています。多くの場合、このような行動は、本人の中にあるコンプレックス(劣等感や否定経験)に起因しています。
とくに以下の3つのパターンは、コンプレックスベースの行動としてよく見られ、組織における生産性や人間関係に悪影響を及ぼすことがあります。
- ① 同一視:自分と優秀な他者を重ね、「自分も同じようにできる」と思い込む。実際の能力とのギャップがある中で、過剰に自信を見せる傾向。
- ② 反動形成:本当は苦手・自信がない領域を「そんなの重要じゃない」と否定し、周囲や仕組みに攻撃的な態度を取る。
- ③ 投影:本来は自分の課題であるものを「上司が悪い」「環境が合っていない」などと外に責任転嫁する。
こうした行動は、一時的には自分を守る“防衛策”になりますが、長期的には自己認識の歪みや学習の停滞を招き、成果や成長の妨げになります。
3-2. 承認欲求”と“自己防衛”の心理的背景
現代の職場では、「多様性」「心理的安全性」といった価値観が広がる一方で、承認欲求や自己防衛的態度が過剰に表れるケースも増えています。
承認欲求は人間にとって自然な感情ですが、その度合いが強くなりすぎると、動機が「成果を出したい」ではなく、「否定されたくない」にすり替わってしまいます。
その結果、
- 他者と比較し、優位に立とうとする
- 必要以上に“明るく前向き”を演じてしまう
- 指摘やフィードバックを極端に恐れる
といった行動が見られ、本人にとっての安全確保が目的化されてしまいます。この状態では、本質的な挑戦や成長が起こりにくく、行動が防御的・短期的になりがちです。
3-3. 不安ベースの行動がチームに及ぼす影響とは
不安が動機となっている行動は、本人にとっては“頑張っている”つもりでも、チームにとっては見えないリスク要因になることがあります。
具体的には、以下のような状態が生まれやすくなります:
- 行動にムラが出て、一貫性がなくなる
- 責任を他者に転嫁する言動が増える
- 他人への攻撃や皮肉が増え、チームの雰囲気が悪化する
これらはすべて、心理的な揺らぎが周囲に伝播していく状態です。いくらスキルがあっても、こうした動機ベースの行動が続くと、チーム全体のパフォーマンスや信頼関係に悪影響を及ぼします。
大切なのは、「不安だからダメ」と否定することではなく、その動機を理解したうえで、「不安」から「意思」への動機の変化を支援することです。育成やフィードバックの現場では、行動の裏にある動機の質に目を向けることが、人材開発における新しいスタンダードとなっています。
4. 「価値観」に支配された行動の限界
4-1. なぜ思い込み行動は柔軟性を失うのか?
「こうあるべきだ」「これが正しいに決まっている」といった、根拠の曖昧な“価値観”に基づく行動は、実は多くの現場で見られます。
こうした価値観の多くは、家庭・教育・職場など、過去の経験から無意識のうちに刷り込まれた「思い込み」です。
たとえば:
- 「報連相は常に丁寧に行うべき」
- 「ミスをしたらまず謝罪するのが当然」
- 「年長者には意見すべきではない」
一見“正しそう”に聞こえるこれらの価値観も、状況によっては逆効果になることがあります。たとえば、スピード重視の場面での過度な報連相や、謝罪よりもリカバリ対応が求められる場面での謝罪優先行動は、パフォーマンスや信頼を損なう可能性があります。
つまり、価値観ベースの行動は「状況を見て行動を変える柔軟性」に欠けるという構造的な弱点を持っているのです。
4-2. 現代における価値観の多様性と適応力のバランス
現代社会は、かつてないほど価値観の多様化が進んでいます。リモートワーク、副業、パーパス経営、Z世代の価値観…いまや「みんな同じ考え方を持っている」前提は通用しません。
こうした時代に求められるのは、「自分の価値観を貫く力」ではなく、価値観を客観的に認識し、必要に応じて調整できる力です。つまり、“価値観のメタ認知”と“適応力”が問われています。
たとえば、仕事に対する考え方が異なるメンバーと共に働く場面では、「自分の考えを押し通す人」よりも、「相手の立場や背景を理解したうえで、接点を見つけられる人」の方が、結果的にチームを前進させる存在となります。
採用においても、「自分の信念を持っている人」だけでなく、多様な価値観を受け入れ、対応できる柔軟性のある人材こそが、変化の時代を生き抜く力を持っているといえるでしょう。
4-3. 条件づけられた価値観からの脱却は可能か?
そもそも「価値観」は、生まれながらのものではなく、多くは過去の経験による“条件づけ”から形成されたものです。
- 「これをやったら褒められた」
- 「それをすると怒られた」
こうした体験が繰り返されることで、「こうあるべき」という判断基準が自動的に内面化されていきます。
しかし、心理学の視点では、このように刷り込まれた価値観も、気づきと新しい経験によって“書き換え”が可能とされています。
たとえば、
- 異なる価値観を持つ人との出会い
- 安全な場でのフィードバックの受け入れ
- 「なぜ自分はそう思うのか?」を深く掘り下げる内省の時間
こうしたプロセスを通じて、自分の価値観を見直し、アップデートすることができます。
そのため、組織としても「正解を教えること」よりも、多様な視点に触れ、自分の思い込みに気づける環境や対話の場を用意することが、これからの人材育成において重要な役割を担います。
5. 「能力」を起点とした行動はどう評価する?
5-1. スキル発動型人材の強みと限界
能力、すなわちスキルや知識を動機として発揮される行動は、一般的に一定の安定性と再現性を持ちます。専門性の高い職種や現場業務では、スキルが動機となって正確な判断・実行力を支えることは大きな強みです。
しかしながら、能力ベースの行動は「過去に学んだ枠内」で最適解を出すことに留まりがちです。変化のスピードが速く、解のない状況に挑む機会が増える現代においては、「答えを探す力」ではなく、「問いを立てる力」や「状況を変容させる力」が必要とされています。
つまり、能力が動機になる行動は、いわばレベル3の安定ゾーン。そこに安住してしまうと、コンピテンシーレベル4に求められる変革力や創造力に届かないのです。
5-2. ラーニングアジリティが能力の枠を超える
では、能力をベースに行動する人が、その限界を超えるには何が必要でしょうか?
近年、注目を集めるキーワードが「ラーニングアジリティ(学習敏捷性)」です。これは、「新しい状況に素早く学び、適応し、成果を出す力」を指します。
単なる“学び好き”ではなく、ラーニングアジリティの高い人は以下のような特徴を持ちます:
- 過去の成功体験に固執せず、新たな手法を積極的に試す
- 失敗やフィードバックを素直に受け入れ、自己成長につなげる
- 学習内容をすぐに実践に移し、結果を検証するサイクルを回す
このような人材は、「能力の枠」を超え、能力を“育ち続ける”起点として捉えているため、変化にも強く、コンピテンシーレベル4への移行がしやすい傾向があります。
5-3. レベル3人材からレベル4へ導く育成視点
レベル3の人材が持つ「能力ベースの安定性」は、組織にとって貴重な戦力である一方、変革期には「限界」にもなり得ます。だからこそ、人事や上司には「レベル4への橋渡し」を担う視点が求められます。
そのためのアプローチは以下の通りです:
- “なぜそれをやるのか”という意図の問いかけ:自分の行動の背景にある意思を言語化する。
- 役割や課題に“余白”を持たせる:正解が決まっていない中で、意思決定の機会を与える。
- 対話やコーチングで動機を掘り下げる:スキルだけでなく、「どうなりたいか」「何を実現したいか」を確認する。
重要なのは、「能力の強化」ではなく、「能力をどう使うかという意思」に目を向けさせることです。動機が“意思”へとシフトしたとき、初めてレベル4の行動が芽生えるのです。
6. レベル4──“意思”に基づいた行動とは?
6-1. 自己決定から始まる行動の強さ
レベル4のコンピテンシーを支える動機は「意思」です。これは単なる希望や目標とは異なり、「自分がこうしたい/こうあるべきと判断したことを、選び取って実行する力」を指します。
このような意思ベースの行動には、以下のような強みがあります:
- どんな状況でもブレない軸をもつ
- 成果に対する責任感と当事者意識が強い
- 外発的な報酬や評価ではなく、内発的な満足が原動力になる
自己決定理論でも言われるように、人間は「自律性」「有能感」「関係性」の3つが満たされたとき、最もパフォーマンスを発揮します。意思を持った人材は、まさにこの3つを内側から満たせる存在です。
6-2. 主体性・単一性・連続性・自他の区別の再定義
意思ベースの行動を深く理解するうえでの4つの構成要素を、現代的な観点で再定義してみましょう。
| 要素 | 現代的な定義と意義 |
|---|---|
| 主体性 | 「自分の判断で選び取る」こと。たとえ指示があっても、その指示を採用したのは自分という意識を持つ。 |
| 単一性 | 自分の強み・弱み・感情すべてを受け入れた“統合された自己像”を持つ。 |
| 連続性 | 一貫性のある行動原則と、状況に応じて変化させる柔軟性の両立。過去と現在がつながっていると自覚できること。 |
| 自他の区別 | 他者と自分の思考・感情・スキルを混同せず、それぞれの違いを認めたうえで対話・協働ができること。 |
これらの要素が揃っている人は、自分という“主語”を持ち、外部環境や周囲の影響に左右されずに、状況を変容させる力を発揮できます。
6-3. 「自己理解」と「自我形成」を支援する現代の人材開発とは
コンピテンシーレベル4の育成には、「自己理解」や「自我の確立」が不可欠です。
しかし、近年はモラトリアム(自分探しの時期)が20代後半~30代以降にずれ込み、就職後にようやく“本当の自分とは?”を考え始める若手も増えています。
企業に求められるのは、スキル研修や評価制度だけでなく、自己理解を深める「内省の機会」や「自分との対話の時間」を組織的に用意することです。
例:
- キャリアオーナーシップ研修
- 1on1での価値観の対話
- ジョブローテーションによる「自己の再発見」
こうした取り組みは短期的には成果が見えづらいですが、中長期的には、自律的なレベル4人材を生み出す最大の投資になります。
サービスの
ご紹介
TG-WEBの「A8」は、成果を生み出す行動特性=コンピテンシーを可視化する適性検査です。
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